大人になってから初めて出会い直すピアノ🎹

楽譜棚の整理をしていたら一冊の楽譜集に、目が留まりました。
『大人の初級ピアノ曲集』
存在すら忘れてしまっていたこの楽譜集・・・
この仕事を立ち上げた頃、レッスンに使えないかなと思って購入していたものでした。
気づけば・・・この楽譜集は、
レッスンの中で使うことのないまま、
棚の中で静かに時間を過ごしていました。

どんな曲が中にあったんだっけ?
パラパラとページをめくっていると、自然とピアノを弾き始めていました。
50曲もあるので、「へぇ~」とか「ほぉ~」とか独り言を言いながら、
つらつらと弾いておりました。
不思議なんですが、
弾いているうちに、
なんだか懐かしい気持ちが、静かに広がってきました。
曲によっては、記憶のずっと奥の方にしまい込まれていた
昔の風景やそれと共にあった出来事が想い出されてきました。
すると温かで穏やかな気持ちが湧き上がってきたのです。
それは、「今の自分」が音と新しく出会ったような感覚です。

「弾いている」というよりも、
「今の自分が、新たに音ともう一度出会っている」という感覚でした。
子どもの頃とはちがい、今は、たくさんの時間や出来事を重ねて、
ピアノの前に座っています。
同じ鍵盤、同じ音でも、同じ楽譜を使って同じ曲を弾いても
聴こえ方や、受け取り方が
少しずつ変わっていたりします。
私にはそれが、新鮮で新たな発見をしているようで楽しいなと思えます。

その日の気分や自分の状態で、
ピアノから出てくる音は、いつも同じではなくて微妙に違って聴こえたりします。
私だけではなくて、生徒さんの弾かれるのを聴いていても、
「今日は、すごく素敵なんだけど!」という日があれば、
「あれ?今日はどうしたのかな?」という日もあります。
ご本人は気付いていらっしゃらないことがほとんどですが、
それを伝えると「え~そうなんですか?」
とおっしゃりながら、ご自分の出される音に耳を傾けて、
音とのその日の出会いを楽しんでいらっしゃいます。
その時の生徒さんの表情は、
明るく穏やかだったり、活気に満ちていたりします。
調子の良い時もあれば、
そうでない時もあります。
その時その時のその方のテンポで向き合う、
穏やかな特別な時間だと思っています。
そんな時間・・・
私は、お隣に座っていつも一緒に歩んでいきたいと思っていますし、
生徒さんには、安心して音との出会いを楽しんでいただきたいと思います。

そして、音の一粒一粒がつながって、曲になって流れ始めます。
それは、まるで川の流れのようです。
川の流れは、アップダウンしながら右に左に流れを変えて寄り道をしたりしながらも
何時しか海へと流れくだっていきます。
それと同じように、流れに乗って弾いていくと、
間違って違う音を弾いても、
お手本のようにならなくても、
そのまま弾き続ければ、元の流れに戻っていきます。
大きな流れから見れば、
どんな流れ方もありで、どれもその人らしい流れなのだと思います。
以前ブログで100歳のおばあちゃんのSNSのピアノ動画のことをお話しました。
ゆっくりでテンポも一定しておらず、引っ掛かったり、あらら…と間違ったり、
でも、始終嬉しそうに満足そうに弾かれていて、
とても素敵だなと思いました。
大人だから大きな流れの中で、
音や音の流れを感じ、音の渦の中にいるのを楽しめるのでしょうね。
子どもの頃とはちょっと違うかもしれませんが、
大人になった今だからこそ味わえる楽しみ方なのかもしれません。

ピアノは、上手に弾ける人のものだけではなく、
音に向き合い触れてみたい、出会ってみたい人の傍に、
いつも静かに待っていてくれるものなのかもしれません。