大人の最初の1曲は、
必ずしも「簡単な曲」から選ぶとは限りません。
難易度や知名度よりも、
私がまず見ているものがあります。
それは、その方が
“本当に弾きたいと思えるかどうか”です。
以前、お仕事でピアノを弾いていらした生徒さんがいました。
ピアノは始めたばかり。
必要に迫られて練習を重ねる日々でした。
けれどそこには、
弾かなければならない曲はあっても、
“自分のために弾く時間”は、ほとんどありませんでした。
レッスンを始めて1年ほど経った頃、
楽譜を見ながら自然に弾けるようになったタイミングで、
私はお尋ねしました。
「ご自分の好きな曲で、弾いてみたいものはありますか?」
いくつか候補の曲をあげていただいた中から、
難易度は高いけれど、一番弾きたいと言われた曲で
その方に合わせた楽譜でのレッスンが始まりました。
それは、ピアノ人生での最初の1曲ではありませんでした。
けれど、“自分のために選んだ最初の1曲”でした。
お仕事で弾くピアノ曲も大事ですから、
毎回レッスンの時間を少しずつ弾きたい曲のレッスンに当てていきました。
レッスンの中で、私が何より驚いたのは、
弾けるようになりたいという強い願いでした。
歩みは決して早くはありませんでしたが、
あきらめることなく、ピアノと向かい続けられました。
少しずつ少しずつ積み重ねながら
1年ほどの時間を経て、
初めて1曲を独りで弾ききった時、
2人で手を叩いて喜び合ったのを覚えています。
毎回わずかな時間ではありましたが、
自分のために奏でる時間の中で、
その方の中にあった何かが、
静かに花開いた瞬間だったように思います。
“自分のために弾く最初の1曲”は、
その人の人生に静かに火を灯す曲なのかもしれません。
その火が、その人の中で静かに灯り続けるような、
そんな1曲を、
これからも一緒に探していきたいと思っています。


